yokoban style 2005. 12 「経済の話」
_____ #1 損傷状態 _____
今年、私が担当したなかで特に印象深かった1台を紹介します。 ここのところGT-Rの掲載が多いですが、ほんとうにGT-Rの入庫が多いのでご了承ください。 この1年間で、何本のフレームを交換したことだろうか・・・・。 例によって今回もフレーム・ピラーまで及ぶ大破。 このような画像も、当HPでは見慣れた「画」となってしまった感があります。
さて、それでは今回の損傷を説明しましょう。 まず、左フロントタイヤ近辺を強く損傷。 ホイールベースが縮んでしまっています。
ドアは、ずれ落ちている状況。 閉まりません。 これは、Aピラーが曲がっていることを示唆してます。
内骨は、ご覧のとおり。 「メタメタ」・・・です。
______ #2 保険の話 ______
この状態を見れば、相当な衝撃がかかったということが想像できますね。 エアバック? 幸いなことに、開かなかったんだよね。 大きな怪我はなかったようですし・・・。 経験上、どうも34GT-Rのエアバックは、そう簡単には作動しないみたいです。 逆に、これよりも全然軽度の損傷なのにエアバックが作動してしまうケースが あったりして実に悩ましいものなんです。 エアバックって。 なにせ、エアバックは一度開いてしまうと、その修理金額が高くつく代物なのです。 一般に最低でも30万円くらいはかかるでしょうか。 エアバック本体はもちろん、センサー、コンピュータまで交換しなければならないからです。 中には、サイドエアバックやシートベルトの自動巻取り装置もついていたりしますからね。 こうなると相当高くついてしまうのです。 エアバックを含む安全装置は、今では軽自動車でもあたりまえになっていますからね・・・。 ほんと車両保険に入っておくことをおすすめします。
よく考えてみてください。 エアバック付きの車で事故した場合、ボディの修理費だけでなく、エアバックの交換費 30万円以上がプラスされるのです。 「万が一」を考えて、エアバック付きの車に乗っているのですから、万が一のための保険にも しっかり入っておくべきでしょう。 自損(自爆)事故、当て逃げ・いたずら傷・盗難もカバーされる「一般車両保険」がおすすめです。
追記* ここのところ、各メーカー部品価格改定しています。 (おおよそ20%位の値上がり)
_____ #3 致命傷 _____
前側の損傷にばかり注目してしまうでしょうが、 実は、そんなところはたいしたことはないのです。(職人の見方としては) 今回の修理においての最大のポイントは、ドアの前側「フロントピラー」の損傷なのです。
ぶつかったときの損傷がピラーに集中しているのです。 この部分をいかに修復できるかが今回のポイントとなります。
左フレームの下側部分。 衝撃の「逃げ」がわかります。
ストラットタワーバー湾曲。 足回りにダメージを負ったことを示唆しています。
ごらんの通り、ショックアブソーバーが曲がっていました。 ロアアームも先端部で破損。
左ドアの前側。 Aピラーが逆「く」の字となっています。 「致命傷」と言ってもよい程です。
↑ 室内側より見たピラー上部。 ピラー上部はもちろん、屋根にまで損傷が波及した形跡があります。(画像 右)
ほぼ、「ドンガラ」状態
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_____ #4 修正作業 _____
修正機を2機架けての「引き出し」作業を行う。
ピラーは、車の「大黒柱」となるものです。 たたでさえ、頑丈であるところに、あれだけの損傷を受けたのですから、 半端な引き出し力では不可能 実際立ち会ってみればわかるでしょうが、危険な雰囲気が漂っているのです。 この引き出し部分には、数百キロ~何トンという力がかかっています。 もしチェーンが切れたら・・・・ということを考えてしまう場面でもあります。
引き出す位置と引き出し角度を、色々と変えて作業する必要があります。
入庫したのが2月ごろ。 順番待ちのため、着手したのが4月下旬。 せめてもと思い、ゴールデンウイークに犬同伴で出勤・・・・。
修理犬? いやあ、 何の役にも立たないです・・・・。
つづいて、ピラー下部を切開。
グジャグジャですね。
ピラー下部は、「大黒柱の土台」ですから、かなり重要です。 今話題となっています「耐震強度偽装問題」ではありませんが、 「強度を再優先」すべき箇所であります。 その場合、純正部品でステップパネルごと交換するのも方法ですが、 今回は、ここにワンサイズ厚いパネルを作り、溶接することにします。
34GTRの純正「補強プレート」と合わせて溶接。 少なくとも、事故前と同等の強度を確保する。
錆対策も忘れずに。
溶接は、ガス、MIG、スポット(3台)を使い分ける。
偶然フラリと寄った、ある「工具屋」さんが言った・・・ 「大型工具の展示会やってるみたいだね・・・」 実際は、スペースとって結構たいへんなんだけどね・・・・ 良い仕上がりを目指していますから・・・・やりますよ、そのくらい。
____ #5 「耐震強度偽装問題」に関連して _____
関係者に聞いてみると、鉄筋の数を減らしてもたいしたコストダウンにはならないそうで、 ポイントは、簡単設計による工期の短縮とそれによる工費・人件費の削減ができること。 だからこそ、相場よりも安い建物が建てられるのだという。 確かに、消費者は「安さ」を求めている。 商売の基本は、消費者のニーズをつかむということ。 だからこそ「安さ」というニーズを提供できた商売は、当然成功する。 耐震強度偽装問題の教訓は、「なぜ安いのか、安さの背景をよく検討する」ことだろう。 すべて自己責任という意見がある。 相場よりも安かったのだから、何か裏があると疑うべきという意見・・・。 ただ、建物となるとスケールが大きいので、素人では判断が難しいと思う。 そのための検査機構であるのだが・・・それが裏目にでてしまった・・・。 実は、この問題は、そのまま中古車購入にもあてはまる。 不具合のある事故車をつかまされるリスク・・・・。 承知して購入するのならば、何の問題はない。 また、事故歴のあるクルマがすべて危険というわけではけっしてなく、 しっかりと根本から修理してあるならば、安心して長く乗れる。 半端な修理であるにもかかわらす、「事故歴あるけどしっかり直してある」などと説明され 後で嫌な思いをしたり後悔するケースは多い。 修理には、検査機関がなく「しっかり直した」という表現も個人の主観によるからだ。 理想は、無事故車を買えばいいとことになるだろうが、中古ゆえ完全な無事故車を 見つけるのは難しい。 多かれ少なかれ、何らかの修理をしているものがほとんどだ。 それゆえ中古車選びは難しい。
外装パネルの「仮あわせ」
_____ #6 骨格廻りの完成 ↓ _____
「溶接」箇所を確認してください。
パネルとパネルの継ぎ目は、溶接後にハンダを使用。
以上、偽装なく、つつみ隠さず掲載したつもりです。 当HPは、画像が大きいので「重い」とは思います。 以前、ある人にウチのHPを見せたら、「あ~こんなに重い画像入れてるホームページ 俺は見ない」 と言われ、カチンときたことがあります。 聞けば、まだ56kの電話線でインターネットやってるっていうじゃないですか。 東京に住んでいても、まだそういう環境の人もいるんだなあと思いました。 でもね、修理箇所の仕上がり状態をしっかり見て欲しいから、たとえ重くても画像は 大きく鮮明に掲載したいのです。
ほら、小さかったり不鮮明な画像を掲載して「ハンダ盛り始めました~」って言われてもね・・・ だいじょうぶ~?って思いませんか。
______ #7 骨格廻りの塗装をご覧ください ↓ ______
_____ #8 一人前の職人になるには _____
あっ、そうそう。骨折の件ね。 お見舞いメールありがとうございました。 あれは、32GTRのフレーム溶接をしているときにスポットの機械にはさまれたんだよね。 ほんと アセリは禁物。 爪を通して何針か縫ってね・・・・(麻酔無し) 痛かった・・・。
でも、聞けば、ベテラン神田氏も同じくスポットにはさまれて爪剥がしたと言うし、 親方は、若いころドリルで手のひら貫通したとか・・・ こういう怪我は、職人にとっての「成人の儀式」みたいなものかなって、そう思いました。 ほら、どこかの部族で、バンジージャンプやったり、鼻に棒を通してみたりするじゃない・・・・。
おかげさまで、だいぶ回復しています。 ただ、爪は死んで剥がれてしまったけどね。 そのうち 生えてくるだろうから気長に待ちます。
「諸先輩方も通った道なのね」
画像は、アルファスパイダー、フレーム修正
______ #9 室内 ______
ところで、室内側の損傷は、上の画像のとおりでした。
板金作業で可能なかぎり復元。
修理完成後の様子。
補強溶接は、いわずもがな。
「自己満足」
いい言葉だと思いませんか・・・ 「職人」の自己満足。
____ #10 NISMOフードの塗装 ____
オーナーさんの意向で、NISMOカーボン・ボンネットのカーボン目地を生かすようクリア塗装。 クリア3層コートとなっています。 (塗装-自然乾燥-研磨を繰り返すため、日数かかります)
塗装前、やっとエンジンかかって移動中。
リフトアップして塗装しなければならない箇所もある。 いったい何箇所で何回リフトアップし直さなければならないのか? ここに掲載しただけでも、3箇所6回はリフトの再セットアップやってるね。 ありふれた経営コンサルタント的な考えで見れば、 動きが多いと指摘されること間違いないでしょう。
そんなこと・・・・ 十分わかってるつもり。 それでも、やるしかないんだよね。 なんで??
自分の気が済まないんだよね・・・・。 わかる? クルマに狂っていないとわからないだろうなあ~
交換したフレーム廻り。 下側から撮影。
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____ #11 アライメント ____
こういう損傷ケースの場合、足回りの構成部品を全部交換できるのならば理想ですが、 今回足回りで交換した部品は、ロアアームとショックアブソーバーの2点。 明らかに損傷を受けていたと判断できる部分のみ交換してあります。 他にも影響が及んでいる可能性は最初の時点でも考えていましたが、 予算的に何でもかんでも交換はできませんので、最低限の部品交換で済ませるよう配慮。
その結果が、アライメントテスターでわかるのです。
足回りは、実に多くの部品で構成されており、かつ、可否判断する見極めがとても難しいのです。 では、損傷しているかどうかグレーな部品はどうするのか? 「テスターにかけて、基準許容範囲を超えるようならば、その時あらためて追加交換する」 という手順をとりました。
さて結果は?
喜ばしいことに、すべてメーカー基準範囲内におさまりました。 ちなみに、GTRの場合、フロントは「トー」しか調整できない構造となっていますので、 キャスター、キャンバーは、調整のしようがありません。(純正パーツの場合) 多少の左右差はありますが、この程度は新車でも十分あるものです。
あとは、実際に走ってフィーリングチェックします。
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____ #12 完成 ____
34の場合、あの新幹線のような素晴らしい安定感があれば合格だ。 試運転は、基本的には整備の担当だが、僕自身が乗ることもある。 それは、僕が社内で「飛ばし屋」だと誤解(?)されているからだけではない。 自分の直したクルマの走りが気になるからだ。 近くの高速道路に行き、テスト走行する。 ガーンと加速して、強めにブレーキ踏んだりね・・・ 速度? たまに、「250キロまでテストしてください」とか言う人がいて困っちゃうんだよね~。 いくらなんでも他人のクルマでそこまでは・・・・って感じです。 平日の「横横道路」は空いているんだけどね。 う~ん、いちおう、「高速道路にふさわしい速度」でのテストという表現にしておきましょうか・・・。 それ以上は、ご自身の責任でお試しくださいね。
今回のポイント、ピラー廻り。 上手くいった。 ほんとうの修理とは、単純な流れ作業では出来ないもの。 1箇所1箇所神経使って・・・ ほんと時間かかる。
_____ #13 経済の話し _____
ある人が言った・・・「経済優先で何が悪い!」 こういうことを言う人は、たいがい現場を知らない人だ。 知ってて言うならば、それは性根が曲がってしまっているのだろう。 現場の職人に無理難題を言う・・・。 今どきの職人は、立場が弱いのでそのまま従うしかない。 しかし、心から従っているのではない。 気の進まない作業は、誰だってやりたくはないものだ。 時間的にせかされれば、どこか工程を短縮するなり、時間調整をする。 予算・金額を減らされれば、そのぶん手間を削るなりもする・・・。 そういうふうに、どこか無理してやれば結果がどうなるかは簡単にわかることだろう。 職人は奴隷ではないのだ。 ある面、「商人」でもあるのだ。 時間短縮できれば、人件費という大きなウエイトが下がるので当然安く提供はできる。 商品・サービスが安いということは、携わる人達の稼ぎも低くなるということ。 しかし、稼ぎが低くては生活できないから、必然もっと数をこなさなければならなくなる。 数をこなすということは、今やってる仕事の納期と次の予定とがオーバーラップしがちだ。 まさに、このような状態の時にクオリティの低下という問題が生じやすいのではないだろうか。
本来、職人は不本意な仕事を請けてはいけないのだ。 出来損ないを、世に出さないためにはそれが一番いい。 「設計書や計画書」に疑問や納得できない部分があれば、作業に携わる現場から 声が上がってくるような、そういう仕事環境(システム)があってもいいのではないだろうか。 きっと今回のマンション問題でも、腑に落ちない思いでいた建設関係者は多いと思う。
昔修行していた修理工場でこんなことを言われたことがある・・・。 (僕の作業がノロかったので・・・) 「これ誰のクルマ? おまえのか?」 「いえ違います」 「だったら、そんなに気を遣わないでさっさとやれ」
経済最優先の時代は、アメリカの経済破綻をきっかけに終わりを告げるという。 近年、資本主義の「歪み」とも言える様々な問題が世界規模で表出してきているのは、 この前兆ともいう。 具体的には、乱開発による地球温暖化や異常気象などがそうだ。 経済活動を優先しすぎたツケとも言えるだろう。
では、この先いったいどうなるのだろうか?
なんと、これからは「心の時代」になっていくという。 経済システムがなくなるわけではないだろうが、「心」というものが見直されてくるのだろう。 「心」を軽視しては、商売だけではなく、すべて上手くいかなくなるということのようだ。 この先どんなに技術がすすんだとしても、人間が携わる以上「完璧な世の中」とはならないだろう。 パソコンだって、よくフリーズする。 「セルシオ」だって壊れるときは壊れる。 どれも優秀な人達が、渾身込めて作ったであろうことは間違いない。 それでも、トラブルはある。 むしろ、エンスーなイタリア車オーナーなど、壊れることが喜びと感じる人もいるくらいだ。 実に人間的な暖かい考え方だとは思えないだろうか。
「心」というものが、人間ひとりひとりの「思考」だとするならば、 「心の時代」とは、つまり、ひとりひとりの「想い」を尊重する時代ということだ。
_____ #14 最後に _____
スポーツカーにとっては、「走り」こそ命。
事故前と変わりない走りが見込めないのであれば意味がない。
納車後、オーナーさんからメールをいただいた。
~R34GT-Rの修理でお世話になりました**です。 本日の納車ありがとうございました。 帰りの道中で色々と運転を試しましたが、ボディー剛性、ステアリングからの インフォメーション等、事故前と変わりありませんでした。 高速の料金所ダッシュでも、ハンドルのブレ等無く、 安心してアクセルを踏むことが出来ました。 (安全運転には以前より増して心がけるつもりです) 高速道路でも、異音もなく、快調に運転できました。 修理後の仕上がりも本当に綺麗で驚きましたが、 実際に運転して、違和感無く以前と同じ感覚で運転できることに 更に驚きました。 本当にありがとうございました。 (2005年7月23日)
** オーナーさんのHP「OJNET」は こちら からどうぞ 「My skyline 蘇生への道」というコーナーがありますので、そちらをご参照ください。 今回の修理についての詳細・裏話も掲載されています。
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既に、来年の仕事が集まってきている。
目標は、前年の仕事を超える仕事をすること。
当HPご覧の皆様のご多幸をお祈り申し上げ、 一年のお付き合いのお礼とさせていただきます。
2005年 年末 yokoban
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